80 森山で狐に化かさる

 入生田の高橋与四郎さんは、百年ばかり前のこと、高畠へ祝儀へ呼ばれて行った。そして苞(つと)の土産を持って帰途についたのは夕方であった。今しも森山へ差しかかったのは、薄暗の頃となったところ、うしろの方から一人の若い子どもを背負った「一人」の女は追いかけてくる。そして言うには、最早、夕方になったので、心細くなったから、どうか一しょに連れて行って呉れという。子どもはしきりと泣く、女は子どもはあんまり泣くから乳を呑ませたいから、子どもをとって下さいという。女の事だから、彼のいうがまま子どもをおろしたその時、つとを傍に置いた。その苞をさがしたが見えない。はてここにおいた筈と、いくら見ても見当らない。女はと見れば、女の姿はない。今迄泣いていた子どもの姿もない。若い女と見えたのが狐であった。狐が苞のものを食いたいために、若い女と化けて苞をとったのであった。こうしたことは森山付近にときどきあったという。
(入生田)
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