82 火柱を見るり

 三十五・六年前のこと、分水場渡部さんが、水車をしておった頃であった。入生田の吉田倉次さん所用あって、同家にいたり雑談に時をすごし帰宅についたのは四更の頃であった。人通りのない暗路、今しも田中をすぎ、丁度清兵衛さんを過ぎた頃であった。赤田稲荷堂の付近から丈余の火柱は天に沖して立った。初めは火事かと思った。あたりこの火柱のためはっきり見ることは出来た。余りの不思議さにしばし歩を止めて熟視した。凡そ一・二分間後は火柱なく、元の暗路となった。にわかに怖ろしくなって、一散に帰ったといわれる。同時刻に安部要助さんも目撃したといった。余りの不思議さに神おろしをしたら火難は見えるといわれ、注意していたら、暗に二三日すぎると、隣家の原田たみさん方で失火があったということである。
(入生田)
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