88 むじな女に化けてくる

 むかし、和田にこんなことがあった。親父は連日山に行って炭焼きをしていて妻は家で留守番をしていた。ある秋のこと、その夜はまだ且つて一度も来たことのない妻は山の炭焼小屋へと訪れて行った。見れば間違いのない妻であった。今まで妻は炭焼小屋に来たことのない筈、てっきり魔性のものに相違あるまいと、泊って行くなら泊って行けと、素知らぬふりをして迎えた。炭焼小屋とて、たき火をしながら、寝たふりをして、傍へ斧をおいてそれとなく注意をしておった。妻と思った彼れも寝たが夜も更けてくると、彼れの下の方がだんだんと大きくなった。プカリプカリと口をあけて来る。おのれは魔性の物と、そばの傍の斧で一撃殺してしまった。そのまま夜明け迄投げ放っておいた。朝日でみると、それは年を経た大狢であった。
 またこんなこともあった。ある一人の若者、深山へ炭焼に行っておった。ある夜のこと、一人の若い女は訪れて来た。そして言うには、姑にいびられて夜逃げて来たから、一晩泊めてもらいたいという。彼の男、これは必ずただものでないと承知して、たき火を取り巻いて寝た。寝たふりをして、それとなく見ていると、下のものが段々とふくれて来る。女と思ったのは男なのであった。すわ怪物と今燃えている木を彼のものに、目がけて刺しつけると、ギャッといって逃げた。それを追って鉈で切りつけ殺してしまった。やっぱり年を経た大きな狢であったという。
(和田)
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