92 源氏屋敷の夫殺し

 上和田の源氏屋敷に大蔵という男がおった。その体は大躯・大兵・肥満なものであった。その妻を岩野という。北和田の常勝院の住職と通じ不義の快楽にふけっておった。末二人相談の上、夫大蔵を殺さんものと酒を飲むのを幸いに、その中へ毒を盛った。しかし腹痛とともに下痢して、日が経つに従って全快した。この上は最後の手段を用いんと包丁をもって殺し、稲子原の善之なるものを頼んで道路へ投げ他殺と見せた。厳重な調べで岩野も常勝院も聟の伊勢松も娘のやすのも共謀の理由で捕えられた。その後伊勢松は牢死し、常勝院も岩野も重罪で遠島に処せられたが、まだ命はあったと見え、大赦の恩典に浴して下獄した。岩野もやすのも珍らしい美人であったといわれる。
(和田)
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