96 菊叔父のこと

 下舘の次兵ヱさんは部落中切っての旧家である。入生田栗田政四郎さん、田中平間家一族皆次兵ヱさんの新家であるという。その次兵ヱさんに菊叔父という人が居った。長助さんのお湯好きで名物男となった。用事があって家を出て七度も戻ったという変人。湯釜の大きな家に行くと大喜び、こちらの家は金持だなどといって喜んだ。ある人、菊叔父を小使いに依頼した。かねて菊叔父に来たら何もいらないから、大釜に湯を沸かして馳走してくれと語って言ったので、先方の某はその労を謝し直ちに湯を沸かして馳走した。菊叔父喜ぶこと限りなく、こちらの家は仲々の大家だとほめては呑み、喜んで帰った。それから同家の小使いは喜んで行ったといわれており、名物男を出した露藤衆だとは、それから始まった。嫁聟衆も湯が好きになったから、居すわったといわれるようになった。
(露藤)
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