98 乞食の祝儀

 甚之助さんの妻は上郷村の木和田から嫁している関係で、若い頃用事があると天王川の近道をして夜道して通った。萱は道をおおい、寂しく、殊に天王の辺は昼すら気味がわるい。ある夏の夜、甚之助さん、ここを通ったら天王堂にローソクが明るい。近付いてみれば、乞食の祝儀だった。花嫁は矢張り美しい晴着をつけ謡をうたう。歌はうたう。甚之助さんを見ると、「兄さんや、祝いだから一つ祝ってもらいたい」と盃をさされた。いずれも乞食の姿ではなかった。ぼろ衣は彼等の労働着だという。
(露藤)
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