109 田の草取り

 むかしむかし、あるところに大きい百姓あって、ほこに一枚で千刈田ていうなあっけど。ところが、ほれ、田の草取り、みんな()んだもんだから、若衆だ、ぐるっとまわしてはぁ、
「取ってきたすはぁ」て言うて、毎年田の真中頃悪れぐてはぁ、荒れんなだったど。一策を案じて旦那、田のちょうど真中ごろさ、台置いて、はいつの上さ、赤いお膳さニシン、ほれから生味噌、一斗樽さ酒二本、こいつ立てておくのだけど。ほして、「取ってきた」「今日は何にもなかったか」「何にもないがった」
「はぁ、ほうか、ほんではお前だ、田の草取らね」
 こういう風にごしゃがれっかったど。
 ほしてある時、真面目なばり取って、ちょうど真中ごろまで行ったらば、ゃっぱり、その賄いものあっけて。ほして、
「ほんじゃ、こいつ御馳走なってもええていうわけだべ」
 ていうので、田で御馳走なったれば、みな酔ってはぁ、どんちゃん騒ぎになった。ニシンに生味噌つけて食って、酒、お椀で御馳走になっていた。ほして、
「旦那、旦那、今日、何だてええ御馳走あってはぁ、一日取らねで、半日で、まずはぁ、御馳走なって、みんなこだごとなってしまったはぁ」
 て言うた。したれば、
「ああ、ほんでええなだ。はいつはおら家の祝いことだから、ほこまで行ったらいつでも飲んで食って、ゆっくりしてけろ」
 て、旦那は言うたった。んだから誤魔化したりすねで、真面目にすんなねもんだて言うたもんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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