117 胆だめし

 むかしむかし、若衆だ夏分など退屈してよくいろいろな、もよおしものやった。ほんで手軽にできんのは、五六人集まっど試胆会ていうのやった。若衆の集まるどっから三、四百米離っだどこに、お不動さまあった。そのお不動さまさ行って、早くの人は剣もって来る。後の人は、それをお不動さまさ収めてくる。それのくりかえし、途中には馬鹿にし役ていうか、おどし役ていうな隠っでいで、出没しておどかした。胆の細かい者はふるえたり、泣いたり、いろいろそれが面白くて試胆会ていうの、よくやったもんだ。
 ところが、ある時、人逝くなって新しく葬って、ほのお墓さ、花環だ何だていうの造り花など新たなうち、
「お墓さ行って杭打ってくることにしたらええべ」
「いつぁええがんべ」
 ていうわけで、ほして最初の人は杭打ってくる。次の人はその杭持ってくる。また次の人は行って打ってくる。それの繰返しした。一人の人になったれば、なんぼしても、常に大きいことばり言うているんだけど、なんぼしても返って来ね。
「おかしいこともあるもんだ」
 と思って、みんなして行って見たれば、お墓さ倒っでいだっけはぁ。ほして気絶しった。ゆり動かしたり、水かけたりしてやっと蘇生させて、
「おいおい、君、なにした、まず」
 て言うたらば、
「ああ、ぶっ魂消た、杭打って来っど思ったれば、お墓からいきなり手出して、おれな着物押えだ、なんぼ逃げんべと思っても、逃げらんねくて、ほこで気絶して、ほれから何だかわかんねはぁ」
「ほだごどないべなぁ」
 て言うたらば、ほの杭打つとき、あんまり泡食って打ったもんだから、自分の着物の裾さ杭打ってしまった。んだから、立って、おっかなびっくり来んべと思ったれば、ほれ、丁度杭さ引掛かったもんだから、引張っだみだいになった。はいつで幽霊に引張らっだでないかて、はっと思って、ほこで気絶してしまった。んだから度胸もないくせ、あんまり大きいこと()んねもんだって、(せんに)の人は言うたもんだど。どんぴんからりん、すっからりん。
>>蛤姫(下) 目次へ