62 楠正成

 むかしむかし、楠正成ていう、えらい大将いだっけど。ほして中々武勇にもすぐれていて、はかりごとも上手だった。
 たまたま、敵軍が優勢で、たびたび危険になることあった。その時は一方には藁人形を作って、ほして少人数で大声を上げらせて、大軍が来たように見せかけて、うしろの方から廻ったりなんかして、さんざん賊軍をやっつけたわけだ。
 ところがある時、賊軍の方が優勢で、孤立無援のような形になってしまった。それはまずええとしても、食糧攻め、水攻めに遭ってしまった。食糧は何とかなっけんども、水はとってもとっても苦しがった。ほんどき一策を案じて、敵のよく見えるようなどこさ、馬ば引張り出して、その馬の背中さ水ぶっかけたように見せるようにして、米ぶっかけた。ざあざあ、ざあざあと、下の方から見たれば、ちょうど水で馬洗ったように見えた。
「ははあ、なんぼ水汲むとこ封鎖したてわかんね、上にはどこかに水出っどこあんなだか知んね、馬洗うほど水出る」
 ていうわけで、水攻め解いだったて。ほれから水ゆうゆうと使ういぐなって、戦さ有利な方さ導いだった。どんぴんからりん、すっからりん。
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