63 石肥三年

 むかしむかし、ある村に与平さんていう人いだった。ほの人は、朝から晩まで「ありがたい、ありがたい、ありがたい話だ」てばり言うてるもんだから、誰言うとなく「ありがた与平、ありがた与平」て言うようになった。
 ほして、決して怒らねがったもんだから、我鬼べらまで舐めていたずらして、馬糞(まんくそ)ぶっつけたり、ほら何かえした。ほんでもごしゃがね。「ありがたい、ありがたい」て言うていっかった。ほして、ほの馬糞、畑さ肥料(こやし)して、作物うんとええあんばい採って、ほして喜んでいだった。
 ある時、田んぼさ行って見たれば、田ん中石だらけだった。ちょぇっと見たれば狐子だいっぱい逃げて行った。
「ははぁ、狐子だいたずらしたんだな、よし」
 ていうわけで、大声上げて、与平さんが言うた。
「いやいや、ありがたいもんだ、ありがたいもんだ。石も三年経つと小便たれるて言うたもんだ。こだえいっぱいの石ぁ小便たっでけだら、田、たいしたごど、ええあんばいだ。かいつ、もし馬糞だったり、何かえモクダだったりしたら、おぇねぇごと(困ったこと)始まっかった」
 はいつ聞いっだ狐子だ、むんつんなもんだから、みな石片付けて、次の日、すぱっと馬糞だらけにしったけど。んだから、何事も短気おこさねで、感謝の気持もってる人は、いつか、ええごとあるもんだどて、昔の人ぁ言うたもんだど。どんぴんからりん、すっからりん。
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