74 瓜姫子

 むかしむかし、じんつぁとばんちゃいだっけど。
 ほして、ある時、ばんちゃ町さ行ったらば、熟み瓜ていうな売っていだっけど。ほして、
「はいつ、家さ蒔いで、おらだも食うべなあ」
 と思って、
「じんつぁ、じんつぁ、町ちゃ行ったれば、すばらしい瓜出っだけがら、ほの瓜の種子、おら家でも蒔いてみんべな」
(なえ)ていう瓜だけ、ばんちゃ」て言うたれば、
「マクラ瓜ていうたな」
「マクラ瓜ざぁあんまいな、マクワ瓜て言うんだべ」
「んだて、枕ぐらいあっけも」
「いや、はいつはどうでもええげんども、はいつは甘ごくて、うまいなで、はいつ蒔いてみんべ」
 ていうわけで、次の年、その熟み瓜蒔いだんだど。したれば他なよりも、ひときわ大きい瓜あっけ。ほして光沢もええし、
「いやぁ、じんつぁ、じんつぁ、すばらしい瓜なった、まず割って食うべ」
 と思ったれば、中からきれいなめんごい、女おぼこ出はってきた。
「かいつは神さまの、お授けだ。育てんべ」
 ていうわけで、
「名前、何とつける」
「瓜から出はったから、〈瓜姫子〉とつけんべ」
 て、瓜姫子と名付けた。ほして、蝶よ花よと育ててる。瓜姫子もだんだぇ大きくなって、ほして、いつとなくばんちゃに聞いて機織りするようになった。ほして、キッコパタン、キッコパタン、トンカラリン、トンカラリンて機織ってだ。ほして、
「機も織ってけっし、瓜姫子の好きなトコロでも掘って来て、()せんなねっだな」
 ていうわけで、山さ、じんつぁとばんちゃ、トコロ掘り行ぐ。んだげんど、
「瓜姫子、ここらに天邪鬼ていうて、悪れ奴いで、はいつ来っどなんねぇから、決して戸開けんなよ」
 て言うて、山さトコロ掘りに行った。ところが間もなく、「瓜姫子、瓜姫子」て来て、友だちなふりして遊びに来た。んでも開けんなて()っだんだから、
「駄目だ、あけらんね」
「つうと、ええがんべな、つうと開けでけろ。小指入るほどでええから開けてけろ」
 気のええ瓜姫子は、ほれ、頼まっだもんだから、つうと開けてけだ。したれば、
「いまつうと、親指入るほど開けてけろ」
 て言うもんだから、いまつうと開けてけだれば、グィラリと開けてはぁ、中さ入って来て、瓜姫子ば天邪鬼は殺して、食ってしまったんだどはぁ。ほして表の柿の木さぶら下げて、自分が瓜姫子に化けで、機師さ上がて、機織の真似しったんだど。ドガラエン、ドガラエンなて。
 ほして、ほだごと知しゃねで、山からじんつぁとばんちゃ来て、
「ほらほら、まず洗って、トコロ煮てけっから」
 なて、煮て食せだれば、瓜姫子はほりゃ中しか食ねな、毛も皮もむちゃむちゃみな食う。「おかしいもんだ」と思ったれば、表でカラスぁ鳴いだ。
  瓜姫子は柿の木
  天邪鬼は機師の上
 て、烏はないだ。おかしいこともあるもんだと思って、ねつく見だれば、瓜姫子だと思ったら、ほの天邪鬼ぁのっていだんだけど。じんつぁとばんちゃ、ごしゃえでほの天邪鬼ば殺して、畑と野原さ埋めだんだど。天邪鬼ば殺したときの血ぁ真赤になったもんだから畠のそばの根っこは赤いし、野原のカヤの根っこが赤いのは、天邪鬼の血のおかげだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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