86 火車猫

 むかしとんとんあったずま。
 猫ていうな、十三年以上おもうど化げるていうたもんだど。化けた猫のことを、〈火車猫〉ていうた。
 ほしてある時、火車猫がお観音さまお詣りに行った。ところがお観音さまが、
「お前、むかさりもらいたいところあるんだが、むかさりに化けられっか」
「いやいや、むかさりなの簡単だ」
「んでは、むかさりに化げて、ずうっと化け(とお)すいが、通すいごんだら、おれ、仲人してあげる」
 観音さま、こういう風に言うたど。したら、「ほだな簡単だ」「元の本性出さねが」「出さねっす」て、「ほだらば、ええ」ていうわけで、約束して、ほしてお観音さま仲人で、ほれ、花嫁衣装着て、むかさりになって行った。ほしていよいよ固めの盃、三々九度ていうとき、家の隅っこでねずみ、ちゅうちゅう、ちゅうちゅうて出はってきた。ほうすっど我慢さんねくて、元の猫の姿になって、いきなり飛びかかった。ほして、やっぱり人間のおかたにならんねくて、ほして猫は猫だけど。火車猫になってもやっぱり本性ていうの現わすもんだから、駄目だて、みんな言うたけど。どんぴんからりん、すっからりん。
>>蛤姫(下) 目次へ