87 商人と蛇

 むかしむかし、商人がずうっと旅して行ったれば、秋さか...なもんだからはぁ、霜柱の上に蛇がかたまって、ソッキみたいになって固くなっていだ。寒くて何とも仕様なくて、こごえるみたいしった。
「いやいや、可哀そうだ」
 と思って、ふところさ入っでだ。したればだんだぇ(あた)かくなって動き出してきた。ほしたけぁ、ほの旅人の腹、喰付いてしまったんだど。喰付いた蛇、なんだと思ったら蝮なんだけど。ほうしてほの蝮の毒廻って、して、旅人言うた。
「何だ、お前。おれにこれほどめんどう見らっで、いま少しで凍え死んでしまうどこ、おれはフトコロさ温めで呉っだな、なして人の腹喰付くなだ」
 したれば、蛇は言うたど。
「いや、おれは商売だから喰付いだごで、喰付くな商売だ。お前も商人商売と同じで、おれは喰付くな商売だ」
 て言うて、何らほの反省の色もながったど。んだから人間も、ほのぐらいめんどう見ても、かえってあだする人いっから、気付けんなねもんだて、昔の人ぁ言うたもんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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