89 蚕と馬

 むかし、唐の国の旦那衆さ、一匹の男馬が飼わっでいたど。ところがほこに一人娘がいて、とっても間柄がええくて、二人が仲良かった。んだげんども、唐の国どて、馬と一緒になるわけ行かね。ほして恋こがれて、
「んだらば、おれ死んで、蚕にでもなって、ほしてほいつの糸とってもらって、一生体さつけてもらった方が、仕合せだべ」
 て、ある時ほの馬死んでしまった。
 ほうしたけぁ、ほの毛一本一本が全部お()様になった。ほして、はいつさ一生懸命、ほの娘が桑食わせて育てた。ほうして大きくなって見たれば、やっぱり背中さ馬の足跡二つついっだけて。
「ああ、やっぱりあの馬だったな」て。
「おれ、この蚕立派に育てて、そして機織って、一生着んべはぁ」
 ていうて、一生懸命、蚕手入れして機織って、ほして身さつけて暮したけど。はいつが今のお()さまのはじまりだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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