5 酒代の釣銭

 まいど、銭も持たない癖に稼ぎも好きでなくて博奕うったり、酒を呑んだりなどばりして、まず酒ざぁ生命より何より大事なものにしていっかった男いたと。
 毎日オカタどこさ、酒買わせて呑んで、足んねずとまた買わせて呑んでいたと。そしたところぁ正月来たもんだから、何もかにも払いさんなねくなって、そっちからも催促、こっちからも催促さっだげんども、なじょしても払うべくもないがったと。
 そしたらば、オカタ、
「なえだ、あんだそがえに困ってんのが、あんだ一年のうちに酒何本呑んだと思う」
 と言うたと。
「いや、俺はよく分んねげんどもよ」
「俺はよく分る。毎日酒買いしてるほでに、三百六十五日に何本呑んだか、お前の返さんなね借金なんて、どれくらいあっかも分る。情ないもんだ。男なんて…」
 と、針箱かっちゃにして開けてみせたと。
「丁度あんだの酒買いに行くの、一割ずつ減(へ)ずってここさ入っでだんだ。俺ぁもらったでもない。あんだどこから盗んだんでもないげんども、こうして貯めっだんだから、万一のことないとも言わんねし、酒なの呑んでしまったんでは、小便になるばりだしするから、あんだどこ助けることもあっかどて、毎日とってこの針箱さ入っでだんだ。それそれの借金だれば、針箱にあるどこでない。お前が飲んだ一割でお前の借金立派になされんのだ。んだから、そんな馬鹿なことばりしないで、酒など今迄の半分とか三が一にして、そして年とりの時には、楽にしてたらええがんべ」
 と、オカタ言うたと。そしたらしばらく黙って考えっだけぁ、
「なるほどなぁ、俺は一割へすったという金がこれくらいになっどすっど、そいつの約十倍も俺一人で呑んでしまったんだなぁ」
 と、うんと、オカタさ恥ずかしくなって、それから酒をつつしんだと。どーびんと。

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