8 屋敷に金甕

 まいど、うんと旦那衆の丁度そばに元はそれよりも旦那衆だったけんども、稼ぐ嫌いで、酒なのばり呑んで、
「今日は節句の前の日だもの」
 なんて、前の日呑んで、
「今日はお節句だもの」
 なんて、また呑んで、
「今日は節句の次の日だもの」
 なんて、また休んで、ほだほでに一日など稼ぐひまさっぱりないくらいだって、唯のらくらと遊んでばりいて、本当にどんずやりだったと。そしたば今度、年取りなったば、借金取りそっちこっちから催促に来て、いても立っても家の中にいらんねがったと。そして旦那衆どこさ行って、
「こういうわけで、金借りたい」
「いや、俺には貸すほどの金はないごんだ」
「ほんじゃらば、おらえの屋敷がうんと、あんだ皆引き受けて、そして金出してもらわんねが?」
 と、うんと願ったと。
「なに、あんだそんがえ借金したいごんだら…」
「まず、今々食う米も味噌もさっぱりないごんだ、晩げの米もないもんだから、お願いに来たんだ」
「ああ、そうか、俺はお前の屋敷買うなどええ、俺の屋敷の続きなんだから、うんと大きくなってええどこでないげんど、俺はな、こういうこと聞いっだもんだ。隣のじんつぁざぁ、元は百万長者であったそうだ。ほんで屋敷は千刈以上もある。田も畑もある。家だってそれぐらいだったから、余程大きかったべ。そんでも昔の家はどの辺さ建っていたか、俺は分んね。俺の家の年寄衆も、若しあの家で貧乏したときだれば、隣の屋敷だればなじょな工面しても屋敷を買って掘ってみろ、おらえの書いたものには、巽(たつみ)角とある。家は昔どんな向きに建てたものか分んねげんど、巽角には金の塊入れた甕一つ、それから坤(ひつじさる)の角には大判入れた甕一つ、それから乾(いぬい)の角には大判・小判ざくざくと混った甕一つある。それから艮(うしとら)の角には一分金・二分金の甕一つあると、帳面に書かってある。お前がそがえに貧乏だなていないで、そいつを掘り起したらどうだ。四つも埋(う)まってたの一つでも掘り起こしたらば、食いたても、呑みたてなんねなだ」
「ははぁ」
「そんで、そんがえ金あるごんだら、金のために家屋敷(かやしき)ぺろっと買ってけろなんて、売る気になれっか、どうだ」
「そう言われっど、俺も売る気になっていたげんども、売る気がなくなって来た」
「ほだごで、俺ぁ考えてもそうだも。あんだどこむごさいから、おらえの書きもの残しったのを、正直に教えんのだ。あんだも考えてみろ、そんで今々食う米がないごんだら、おらえで六十年古(ぶる)という古米がある。籾堂にぎっちり埋っている。そんで六十年古は一升炊くずど、三升にはなじょにしてもなるもんだ。それから小豆いっぱいとってたのあっから。小豆というものは、何としても三升にはなるもんだ。んだからこの古米さ小豆を混ぜて炊いて、それからおらえの家には、越後の三条で打った鍬、六百匁・八百匁などという大鍬ある。うちの若衆もあんまり重たいもんで使わないし、そいつをあんだとオカタに二つ呉(け)てやっから、そいつでまず掘ってみろ、どこだかも分んねもんだから、屋敷の二千刈を片っ端からずっと掘ってみろ。甕は昔から地中三尺深さに埋めるというから、三尺深さにずっと掘ってみろ。そいつは一日で掘り当てるなんてないべから、若し掘り当てたら古米と小豆を済(な)してけろ。その古米と小豆食い上げたら、俺はまた古米と小豆また貸してやっから、掘ってみろ、まず」
「六十年古一俵と小豆一俵もらったんだから、当分は俺とカカと二人ばりだから食れっから、鍬ももらったし、まずこれからすぐ行って鍬の柄をすげて明日からオカタと二人で掘ってみんべ」
 そして毎日二人で掘って、どこに甕があっかどて、ずうっと自分の分を境すれずれに掘って行ったと。ところが荒れっだ畑、天地返したもんだから、すばらしいええ土地出きて、さまざまな草など出きたと。
「なえだ、甕まだ出ねかい」
「まだ出ね」
「いや、丁寧に掘ってみらんなねごで。ただこがえ空(から)こにしておくの勿体ないから、俺はさまざまの種子いっぱい持っているから」
 粟などぶっ撒かしたり、ソバなどぶっ撒らかしたり、豆などぶっ撒らかしたりしたら、すばらしく掘らっだからええ塩梅になったと。
「どこらにあるもんだい、隣のじんつぁ」
「いや、そいつぁ分んない。そいつ分っているごんだれば、あんだの家など買って、掘り返すなだげんども、そいつだけは分んない」
「はあ?」
「とにかく掘ってみろ、二人で一生けんめいに」
 二人で一生けんめい掘って二町歩さ、さまざま種をぶっ撒らかしたもんだから、米もいっぱい、豆でも小豆でも粟でも稗でも、たんと穫っで、たんと旦那衆になったと。
「金は無いがったげんど、何もかにも穫っで、旦那云う金甕と同じようなこと言うて呉(け)たもんだな、旦那」
「いや」
 その旦那は、本当は隣があんまりどんずやりしてるもんだから、なじょかして稼がせっだくて、まるで嘘語って教えたけと。そいつ本気で掘った。そして旦那衆になったけど。どーびんと。

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