19 角兵衛獅子

 まいど、お正月になっずど、よくお獅子など、猿など使って、軽芝居みたいに軽業よくしっかったもんだ。そいつは、まいどは人間(ひと)がしたもんだと。そいつぁなしてそげなことしたんだかと言うと…。
 まいど、親父が体悪くなって寝ったのいたったと。そんで親父どこさ泥棒入って、皆銭盗って行ってしまったと。と、親父も皆盗られるいたましいもんだから、刀抜いて切ったったと。そしたれば、足の指二本、泥棒のをぶった切ったと。その足の指置いたまま逃げて行ったったと。
 親父は息子さ、
「泥棒、今日入ってこういう訳で、俺がぶった切った拍子に、足の指二本、ここさ置いて行った。にしゃだ、なじょか仇討ちしてけねか」
 と、こう言うたと。
 息子二人いて、そいつは角兵衛と角蔵というのだったと。
「なじょかして親の仇とってけらんなね」
 と、それには足の指二本ない人というのだから足の指を見る工面をさんなね、と、さまざま考えてから、角兵衛獅子の稽古したんだけと。そして先ず一番目に、倒(さか)立ちだったと。それから、
「こういうこと、皆んなされっか」
 と言うんだけと。そうすっど、みんな真似して倒立ちするもんだったと。
 そうしたば、一人、足の指が二本ないのが倒立ちしたんだと。
「こいつ、確かに俺の親父を殺した、そのときの泥棒だな」
 と思って、仇討ちしたと。
 んだから角兵衛獅子というものは、倒立ちしてみせんのだと。つまりは足の指見っどてしたのが始まりだったと。どーびんと。
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