20 長い名前と短い名前

 まいど、夫婦ものがいたったと。そんでオボコ産して、まもなくそのオカタが死んでしまって、その後さ後妻もらったと。後妻もらったが、そのオボコさ名前も付けねもんだから、
「なんと名付(つか)った赤ちゃんだ?」
 と聞かっじゃば、
「まだ、あんだ来て呉(け)るという話なもんだから、まだ名前付けねでいたとこだ。あんだに一生育ててもらわんなねから、女の子だげんど、あんだに名前を考えてもらいたい」
 と、こう言うた。そうしたところがそのオカタ、
「なえだ。俺が産(な)したオボコなんだらばだげんど、他人が産したオボコの名前なんてが…。はっつけなこと(そんなつまらぬこと)チェー」
 と口を鳴らしたと。そしたらば、後何とも言わんねもんだし、仕方ないから、親父は「チエ」と名付けて、常には「チエ坊」と呼んでいたと。そしてそのオボコがやっとヨコタンボウ歩きするようになったとき、丁度家の前さタンナゲ(池)があって、そのタンナゲさ入ったと。そうすっどそのオカタ、出はって来て、
「チエ坊がタンナゲさ入った」
 と言うたらば、名前は短いもんだし、親父は聞えて、わらわら走って来て、その子どもを引上げたと。
 それから二三年経って生まっだのは男の子だったと。そうすっど親父は喜んで、
「こいつは俺の位牌持ちになるんだ。んじゃ俺は法印さまさ行って名前を考えてもらって来る」
 と、法印さまさ行ったと。そしたば法印さまはいろいろな物から、トトサイ文句でうすら十ばり名前を書いてくれた。
「この内、どれでもええからお前取って名付(つけ)ろ」
 家さ帰って考えてみたところぁ、どれ取ってええなか、どれ一番ええなか分んねもんだし、そいつぺろっと名付けたら一番ええがんべどて、名付けたと。
「トクトクリンボウ、ソウリンボウ、ソウタカ入道、ハリマノ別当、茶碗ニ茶柄杓、茶コボシ、セキヒのエイスケ」
 そいつも四つ五つになる頃、ヨタヨタして遊んでいたと。フクベンさ豆煎りと餅切り煎ったのを入っで、遊ばせっだと。家の前にタンナゲあって鯉をいっぱい飼ってたと。餅切りを投(ふ)ってやっど鯉は生呑みするもんで、そいつ面白くって、フクベンから取っては投げ、取っては投げしったと。そしてなじょな拍子だったんだか、タンナゲさ転んで落ちでったと。その時オカタは、
「おっつぁ、おっつぁ、トクトクリンボウ、ソウリンボウ、ソウタカ入道ハリマノ別当、茶碗ニ茶柄杓、茶コボシ、セキヒノエイスケがタンナゲさ入った」
 と言うたと。あんまり長いので、タンナゲさ入った言わね内に、名前呼ばったこと分ったげんども、何のごんで呼ばってたか分んねもんで、来ないがった。つまり来てみたところぁ、あんまり長い名前言ってるうちに、オボコは死んでしまったと
 んだから、あんまり長い名前は付けるもんでないけどな。どーびんと。

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