31 二人の小僧

 あるお寺さまさ二人の小僧っ子いたったと。一人の小僧っ子は、なかなか朝晩つとめがええ、一生懸命な勉強家で習う小僧だったと。一人は何だかんだか掴みどこないような、先ず和尚としては箸にかかんねような小僧っ子だったと。そんとき、
「これは、ほがえ、ええものばり無闇に讃めて、悪い者ばり押えても仕様ない。なんとかして、おだやかな風にして、これを立派な和尚にして二人ともやんなねくてなんね」
 と思ったと。そんで夜飯くってから二人の小僧っ子よんだと。
「あんだだ、な」
「なえだべ、和尚さま」
「むかし、誰ぁ詠んだか知らねえげんども、
   つとめてもなおつとめてもつとめても
    つとめ足らぬはつとめなりけり
 という歌詠んだ人あるそうだ。あんだだ分ったか」
「分かったっし」
「それから、こういう歌もある。
   朝寝して夜寝るまでに昼眠して
    起きている内居眠りをする
 という歌を詠んだ人もある」
「はあ」
「あんだだ、なじょに考える?」
 と言うと、
「こういう歌詠んだ人もあるなんて、和尚さま、おらだどこ呼んで言うには、おらだどこ言んだべな。こりゃ」
 とて、二人の小僧がその晩寝てしまったと。
「あんだ、今迄習ったお経皆語られっか」
 と言うたと。一人は、
「大体語られる」
「おれはさっぱり語らんね。めんどうくさくて、めんどうくさくて語らんね。和尚さまが〈朝寝して〉というのは、俺さ言うのだな。〈つとめても〉と言うのは、あんだのことだな」
 と、なまけ小僧っ子が思ったと。それから毎晩毎晩一生懸命な小僧っ子から聞いて憶えて、後ではどっちぁどうだって言わんねくらいな和尚になったと。
 んだから、意見するなんて言うことは、怒ってだけでは分んねもんだと。上手にそこ教えんなねけど。どーびんと。

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